中古車販売大手ビッグモーターによる保険金水増し請求問題をめぐって、組織的かつ意図的な不正行為の疑いが強まり、経営陣への責任追及が避けられなくなってきた。
同社はこれまで、水増し請求問題に対する自主調査の結果として、「(板金)工場と見積り作成部署との連携不足や、作業員のミスなどにより一部で誤った保険金請求が行われている」「意図的なものでないことを確認している」として、あくまで“過失”であるとの主張を繰り返してきた。
ところが2022年12月以降、ビッグモーターはそれまでの主張を突如として翻し、「事故修理時の保険金請求において複数の工場で重大な疑義事案が生じている可能性が認められた」として、取引のある大手損害保険各社に対して、弁護士を入れた第三者調査チームを設置することを提示してきたのだ。
第三者調査の実施は、ビッグモーターが2022年夏に実施した自主調査が杜撰なものだったと事実上認めることになる。それゆえ、経営陣の抵抗感は強かったはずだ。にもかかわらず第三者調査に踏み切ったのは、日増しに強まる損保からの圧力をかわしきれなかったからだろう。
一部の損保は今年の夏以降、ビッグモーターの「過失主張」に納得せず、工場作業員へのヒアリングといった独自の調査を実施。その中で複数の工場において「工場長などから(水増し請求を)指示された」との証言を得ていた。さらにその事実をビッグモーター側に突き付け、第三者調査の実施を粘り強く求めていたのだ。
取引のある大手損保のある役員は「夏場から第三者調査の実施や、水増し請求の対象になってしまった被害顧客への速やかな対応などをビッグモーターに要求してきた。ただ遅々として物事が進まず寝転がるような姿勢が最近まで続き、頭を抱えるような状況だった。(第三者調査に踏み切ったことで)ようやく一歩前進だ」と話す。
そうして胸をなでおろす損保がある一方で、ビッグモーターと同様に苦しい立場に置かれているのが損保ジャパンだ。既報の通り、損保ジャパンは当初、ビッグモーターの自主調査をそのまま鵜呑みにし、被害顧客への対応すら始まっていない段階で、損保各社が停止していた取引を7月下旬から早々に再開した経緯がある。
「業界を代表する損保としてあり得ない対応だ」。年間200億円近い保険料収入があり、大型保険代理店でもあるビッグモーターにおもねるような対応をとった損保ジャパンには、ほかの大手損保から強烈な反発の声が上がった。
慌てた損保ジャパンは9月中旬、取引を再度中断したが、そうした稚拙な対応は「ビッグモーターとの間で、水増し請求を看過すると裏で握っていたのではないか」(前出の大手損保役員)との疑念を生むことになった。
損保ジャパンは以前から社員をビッグモーターに出向させており、現在は5人の出向者がいる。出向先は不正調査を担う部署(BPテクニカルサポート部)などだ。その目的について、損保ジャパンは現在、再発防止策の浸透やコンプライアンス(法令順守)体制の構築、板金部門の品質向上だとする。
だが、水増し請求問題の適正化に向けて出向者たちは果たして有効に機能していたのだろうか。むしろ「この数カ月間、事態が進展せず膠着していたのは、彼ら(損保ジャパンからの出向者)が寝転がっていたからではないのか」(大手損保幹部)と勘繰る声も上がる。
今後は水増し請求の詳しい実態について、外部の弁護士らが調査を進めることになる。
ただ、いつからどのような規模で、という全容解明までには「(調査は)下手をすれば半年など、相当な期間が必要になる」とビッグモーターの関係者は話す。損保各社によるビッグモーターへの事故車(入庫)紹介は年間で合計3万件以上に上っていたといい、個別案件ごとの精査にはかなりの人員と時間を要するという。
その間、被害顧客への対応も思うように進まないことになるが、金融庁のある幹部は「損保各社への報告徴求を通じて、被害を受けた顧客への迅速な対応を促すというのも一つの手かもしれない」と話す。報告徴求とは保険業法に基づく行政措置で、不祥事や不適切な取引の疑いがある場合などに、保険会社に対して業務などに関する報告書の提出を命じるものだ。
いまだもってビッグモーターの顔色をうかがうような対応をする損保各社の姿が見受けられるなかで、顧客本位を掲げる金融庁としても苛立ちが募っているようだ。
ビッグモーターによる第三者調査の実施表明と前後するように、金融庁は12月に入って損保ジャパンに対して、ビッグモーターが取り扱った事故車の損害査定や保険金の支払い態勢に問題がなかったか検証するよう指示を出した。それは責任の一端が、損保側にもあるとみているからにほかならない。
12月15日、日本損害保険協会の会長として定例会見に臨んだ損保ジャパンの白川儀一社長は、ビッグモーターによる保険金水増し請求問題について「保険会社としてお客様や社会からの信頼は第一であり、不適切な保険金請求に対しては、毅然として厳正な対処をしていく」と述べた。
その上で、「契約内容、事故状況、修理費協定内容など確認のポイントは多岐にわたるが、1件1件の事案を確認し調査が終了したものから、顧客対応を順次開始している」と話した。
水増し請求問題をめぐり、今後はビッグモーターに加えて、対応が迷走している損保ジャパンにおいても対外的な説明責任が求められる。
by 東洋経済
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